ジャガーXEに至る経緯と英国車史の背景 -その4-

-イギリス発の主要セグメントを一手に担うJLRの今後-

「何故XEを選んだか」という話をするはずが、長々今日までの英国車の歴史と現在の立ち位置まで踏み込んでしまったが、もう少しお付き合いを。

ドイツ車(VW、アウディ、BMW、、メルセデス)、フランス車(PSGグループ、ルノー)、そしてイタリア車(フィアット、アルファロメオ)と対等に向かえるイギリス車のラインアップはB~Cセグメントをおさえる"ミニ"とDセグ以降のプレミアム・ラインが揃ってきた"ジャガー"、そしてプレミアムSUVとしては老舗かつ同門の"ランドローバー"が並んだことで形は整ってきたと思う。しかし、一点ポイントなのは、ミニは突き詰めればイギリスのブランドとは言い切れないし、資本自体も100%BMWだ。プロダクトもイギリスで生産されているとは言え基本的にはBMWと同じプラットフォームになった。そしてJLR(ジャガー・ランドローバー)には何の関係もない。

ここからは勝手な想像なのだが、この先ジャガーはもしかしたらCセグくらいまではモデルを用意するのではないかと考えている。XE,F-Pace,XFは成功と言えるし、それによりセールスも急激に回復している。恐らくE-Paceもかなり売れるだろう。次世代的にはEVのI-Paceも開発中だ。ここまでくればCセグハッチバックの"XD"を出しても何も変ではない。

ただ、ジャガーブランドとして、これ以下のサイズのクルマを用意するかと言われれば疑問が残る。アウディもポロベースのA1を売っている現在では何が起こるかは分からないけど、僕はこのコンパクトセグメントやもう少し大衆寄りのクルマで、もしかしたら"Rover"というブランド名を復活させるのではないかと思っている。

実はローバー75、Xタイプと比べたり、いや、75の方が好きだったという人も居ると思うんだよね。少し値段もこちらの方が安かったし。ローバーブランドでリーズナブルかつ英国的なハッチバックやコンパクトが出てきたら、英国車好きには夢が広がるとは思うのだけど。ちょっとクラシカルな路線をローバーに残すってのも悪くないと思う。まぁ妄想だけどね。特にミニはかなり手強い相手だからね。ミニと戦う"Rover"ってのも何とも皮肉なことにはなるけど。名前は、そうだな、やっぱり「メトロ」がいいんじゃないかな。英国車好きの方々なら分かってもらえるネーミングだと思う(笑)。

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"1997 MINI Concept"1997年に提示されていた来るべき次世代ミニのコンセプトモデル。2タイプ提示された。BMW買収以前のRover時代から開発は始まっており、そのRover主体で作られたものが右側。今のプレミアム・コンパクト感やスポーティな印象とは異なり、小さいボディの中に大人4人がちゃんと乗り込めるようなシティコミューター的な側面が強い。初期のベンツAクラスや、三菱のi(アイ)辺りとの共通点も。逆にBMW主体で作られたものはアイコン的な部分は活かしつつもボリュームを増し、スポーティさを全面に押し出したもの。こんなに極端な形にこそならなかったが、2代目ミニはどちらかと言うと、左のモデルに近いのが良く分かる。恐らくこの時点でミニだけは手放すつもりが無かったんだろうな、BMWは


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"Austin(Rover) Metro"1980年頃、ミニの後継としてリリースされたメトロ。ゴルフやフォード・フィエスタが流行った頃のものらしいデザイン。モデルチェンジなども後に行われるが基本のスタイルは変わらず98年まで販売された。それはミニのようにユーザに支えられたものではなく、根本的なモデルチェンジを行う資金が無かったという当時のRoverの事情による所が大きい。

しかし、タタ・モーターズがジャガーとランドローバーを買収した時、ここまでの復権を予想できただろうか。特にイヴォーク以降のランドローバーは、その都会的な路線をどんどん強めており、高級化も著しい。以前はファミリーやエントリー向けだった"ディスカバリー"は最低でも800万以上、オプションなど必要品を載せれば簡単に1000万超えしてしまう高級車で、僕には「家族多めの富裕層向けSUVデザインの高級ミニバン」に見える。また、イヴォークの路線として、ワンサイズ上のアバンギャルドなレンジとしてデビューした"ヴェラール"も、かつて無いスムースなデザインで、こちらもエグゼクティブ向けにヒットは間違いないだろう。

つくづく商売というのはタイミングも存在すると思う。勿論現在のJLRの復権はその質を今までのイギリスのそれらとは大きく見直したことが一番の勝因なのだが、ローバー末期、ホンダやBMWがテコ入れしてもどうにもならず、はたまたイギリスを良く知るアメリカのメーカーであるフォードがジャガーやランドローバーを買収した時は、きっと上手くいくだろうと思われたが、むしろ混迷させてしまったイギリス車の復権は、ミニ以外かなり厳しいと予想された。

しかしタタが資金的に支えたJLRはイギリスのブランド感、プレミアム感は強調しつつも、クラシカルというか懐古的路線を捨て去って、ドイツ車を「欧州車の標準」と認めた上で、それに習ってモダンに豹変した戦略は、ニッチで一部のマイノリティが愛してやまない英国車を葬り去って、富裕層にとって普遍的な高級感を醸し出すことに成功したわけだ。

ただ、それには一抹の寂しさも有る(XEに乗って何を言ってるんだという話だけど)。これはイギリス車に限らず、フランス車やイタリア車もそうだけど、今はグローバリゼーションが強く広まり、また、情報や流通、ディーラー体制の完備、発達で何処の国のクルマでも入手しやすくなった。情報社会だから事前にネガ、ポジも十分入ってくる中でキテレツなクルマや故障率が高いと噂されるクルマにわざわざ手を出すような輩は居なくなっている。それは当たり前の事だし、ポジも沢山有るのだけど、その反面、世の中で良いとされるデファクトスタンダード、もしくはマジョリティにメーカーも向かわざるを得ず、ネガと表裏一体な、メーカーや国ごとの味も何処かで置いていかなかければならなくなったとも言えるのではないだろうか。

だって、携帯選ぶ時に、これは日本製とか、アメリカ製とか意識する人はあまり居なくなったと思う。勿論メーカーは気になるし(Appleとかね)、一部国産メーカーに拘る人も居るし、韓国中国の製品は絶対イヤという人も居ないわけではないけど、多くは使いやすいものを選んでいると思う(そもそも国産メーカーのスマホって昔より減っている)。iPhoneもGALAXYはアメリカ人も日本人も意識せずに使っているわけ。クルマも段々と同じことが言えると思うし、それは強まっていくだろう。

最早シトロエンだって、とてもソフトで良い乗り心地だけど、重量は嵩むし、故障するとサスペンション機能を果たさなくなり、車高までおかしくなるハイドロサスは遂にC5の生産中止と共にその役目を終えるようだ。ルノーのアヴァンタイムも比較的近年では衝撃的なクルマで、ミニバンフォルムに常軌を逸した大型2ドアを取り付けて、何故かリアをえぐり取ったようなフォルムにしたため(ミニバンとクーペの融合だそうだ、でもリアのサスは安価なFF車的なトーションビーム・・・)ミニバンなのに後ろの座席の足元が狭いという、本当にフランス車好きでないとちょっと意味が分からないモデルも有った。好き嫌いは置いておき、それも個性だと思う。

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どう見てもヤヴァイスタイルをしている真にアバンギャルドな"ルノー・アヴァンタイム"。ミニバンベースなのに2ドア、積載性やリアシートのスペースを削り取るCピラー周辺(そもそもこのクルマにBピラーはない)のアバンギャルドなデザイン。フランス車なら何でもアートに見えるホンモノのフレンチエンスーに捧ぐ逸品。

ジャガーの話で言えば、残念ながらフォードとジャガーが描いたネオクラシカル路線とも言うべきXタイプとSタイプはそのデザインはともかくとして商業的に大失敗に終わった結果として、ジャガーは今の道に邁進することになった。このネオクラシカル路線、もう少しプラットフォームやエンジンにもお金をかけて(ミニのように)、デザインももう少し煮詰めれば違う結果も有ったのではないかと思う。そうしたらジャガーは今どうなっていたのだろう。でも、現在が結果であり、それはたらればの話でしか無い。

でも、個人的にはやっぱりアメリカのフォードとコンサバなイギリスを代表するジャガーの相性がつくづく悪かったんじゃないかなぁと思う。アメリカが求めるもの、イギリスが求めるもの、それは生まれが同じながらもフィロソフィが全く異なる愛憎関係のようなものだ。イギリスのコンサバさに嫌気がさして、新しく自由な国を作り上げたアメリカ人にとって、イギリス人の嗜好に合わせるのは苦痛というか、何処か相容れない感情が邪魔してしまったのではないだろうか。やっぱりSタイプとか見ていても、クラシカルで良いデザインなのに何処か愛情や思い入れが足りないような気がしてしまうのは僕だけだろうか、絶妙にCピラーとかはアメ車っぽい気がするんだよね。

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"ジャガー Sタイプ"サイズ的にはXFの前身、つまりBMW5シリーズやメルセデスEクラスと対峙するEセグサルーン。こうしてみると中々悪くないんだけどね。アメ車っぽい内装とかリンカーンと乗り味が一緒だとか評判は当時から微妙だった(後年改良されていくが)。

それでも、やっぱりドイツ車は何処か無骨さや機能美が残ってるし、フランス車も、プラットフォームやエンジンの共用化は進んでいるが、その一方で最近出たシトロエンC3やカクタスは庶民車としてはぶっ飛んだデザインをしていると思うし、アルファロメオのラインアップを見ていると、やっぱりイタリア車はセクシーで格好良い(ジュリアはジャガーXEを参考に、よりイタリアらしく格好良く味付けした感じもする)し、ジャガーに乗っていると、プロコン含めてそこはかとなく「普段はドイツ車と変わんないなと思ってもやっぱイギリス車だなぁ~」と思う瞬間は有るのだ。ま、それはこれから追々話していく事で。

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ブサイク(ごめんなさい)顔なのに何処か愛着も持てそうなニュー・シトロエンC3。先に出たC4カクタスもこんな顔だったよね。ミニバンのピカソも含めこれが新しいシトロエンの顔。やっぱりフランス車じゃないと出てこないデザインだよね。

まだまだ新しい英国車像は発展途上なんだけど、それについて行ってみようと思ったというところかな。と言うわけで、普段使いの感想、レビューもここからはそろそろ書いていく。

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