ジャガーXEに至る経緯と英国車史の背景 -その3-

-ミニが牽引する英国車の現在と矛盾、そこを埋めにかかるジャガーの戦略-

少し逸れたけど、ジャガーが最初に行った「スタイルの変革」「新しいデザイン言語の提示」の後、ジャガー・ランドローバー・グループはイヴォークなどのヒット、タタ・モーターズの資金提供など安定した基盤を築いていった。そしてベースの安定したジャガーの次なるストラテジーは以下の様なものだったと思う。

・空洞になっているイギリス車のC~Dセグメントのモデル確立

・完全自社開発のエンジン、プラットフォームの開発

・ジャガーブランドの再構築(SUVなど既存イメージを打ち破る(ぶち壊す)プロジェクトを含む。むしろ新しいジャガー像の確立というべきか)


先ず最初の話だが、現存し、日本や世界で入手できる英国車はどんなものだろう?
現状も踏まえて箇条書すると、

-ミニ → BMWミニとしてイギリスデザインを纏ったプレミアム・コンパクトなドイツ車として大ヒット

-アストンマーティン(マーチン) → フォードPAG傘下の後、クウェート投資会社を中心に最近ダイムラー(メルセデス)とも提携し、株主へ。遂に英国超高級車三強(アストンマーチン、ロールスロイス、ベントレー)も御三家関係に。基本はGT、スポーツカーだが2000万超えがザラな超高級ブランド。
amdb7.jpg
アストンマーティン DB7 イアン・カラムデザインによる名作の一つ。今でもアストンマーティンのデザインにはこの時代の面影が残る。

xkr.jpg
ジャガーXK(二代目) 同じくイアン・カラムデザインのGTスポーツ。現在はF-Typeにその役割を譲り生産されてないが、「イアン・カラムなジャガー」の初期作品の一つ。DB7と共通点が見て取れる。

-ロールスロイス → 言わずもがなの高級車の代名詞。BMWグループ傘下、実質BMWベースのエンジンやプラットフォーム。

-ベントレー → ロールスロイスと袖を分かち、現在VWグループ傘下、車種にもよるが、VWベースのエンジンやプラットフォーム(クアトロ系の4WDを多く採用している)。ちょいワルな(とてもお金のある)富裕層には人気なので時折都内でも見かける。

-MG → 中国上海汽車傘下、MG周辺の英国車史はかなり複雑なので割愛するけど、とにかく今のMGはライトウェイトスポーツのMGが有った頃とは全く別の会社。プロダクトも中国寄り。日本には現在進出してない。
mbtf01.jpg
MG最後?のライトウェイトスポーツ、"MG TF"。これちょっと憧れたんだよね。MGの2シーターには憧れがある。

-ロータス → 中国吉利(ジーリー)汽車傘下、ジーリーはボルボも傘下に収める。プロダクトは英国。

-ローバー(Rover) → MGと同じくブリティッシュ・レイランドのゴタゴタから色々あり、企業、ブランド共バラバラにされて現存しない。主要なブランドとして、ミニはBMWに、ランドローバーはタタに買収された。なお、現在Roverのブランド名はタタが保有している。

-ジャガー・ランドローバー → インドタタ・モーターズ傘下、今回の話の主役ね。タタは資金提供が主でプロダクト自体は英国。

TVRはどうした?とかケータハムは元気だぞとかそういう意見も有るかもしれないが、先ずは日本人でもパッと思いつけて、かつ、乗用車と呼ばれるものを作っている、若しくは作っていたメーカーを羅列した。

先ず、特徴として、前の回にも触れたように、既にイギリス独自で企業として回っているメーカー、ブランドは殆ど無いことが挙げられる。これはBL(ブリティッシュ・レイランド)統合後のゴタゴタ、セールス不調等から英国自動車産業がどんどん傾いて行ったことが大きいと思う。また、欧州自体の自動車開発競争において、ドイツの優位がどんどん強くなり、結果としてイギリスを代表する高級車、ロールスロイス、ベントレー、アストンマーチンは全てドイツの資本や技術提携無しには成り立たなくなっている。また、ロータスやジャガー・ランドローバーのように中国やインドと言った新興国によって資本を支えられているケースも存在する(これはイギリス車だけに限ったことではないが)。

そういう意味で現在の英国車はブランド名としての英国メーカーを利用しつつもその資本や技術は他国が支えるという新たなフェーズに入っているのである。その先鋒を切って成功したのがBMWミニと言うことになるだろう。

ミニが成功した背景には、BMWのブランドイメージ戦略も勿論あるが、ミニ自体が英国人や世界の人に深く愛された小型車であることも大きいと思われる。"Mini is british icon"とイギリス人が言うくらいミニは今でもイギリス人に愛されている(人口比で勘案すると今でもミニはイギリスで一番売れているようだ)。

つまり、ミニは小型車としては十分高級な部類に入るのだが(特に近年は全然安くない)、その一方でちょっとしたサラリーマンではとても手が届かないと言うレベルではない。また、ミニが出た当時はBセグ辺りは実用車が多く(例えばポロとか)、それらよりもう少し面白さとか高級感のある"プレミアム・コンパクト"が殆ど無いか少なかったという事も有ると思う。つまり、潜在的なニーズを埋めた形になったのだと思う。

当初は2ドアかコンバーチブルしか無く、今のようなバリエーションも無かった。正直リアシートも足元が狭く、ラゲッジルームも小さかったのだが、先ずコンサバなミニ・ファンをクラシックからニューミニへ移行させ、新しいデザイン(むしろサイズと言った方が良いかも)に時間をかけて慣れさせ、年を追うごとに今までの2ドア(3ドア)ハッチバックとは異なるモデルを少しづつ提示し始め、徐々にエンスーやミニマニアだけでなく、一般層へもミニを浸透させていっての今があるんだと思う。既にBMWミニも登場から15年ほど経過し、今ではワゴン、SUV、PHVなどバリエーションを持つ一ブランドに成長している(その分、"MINI"というブランド名が形骸化してると毎度叩かれてもいるけれど)。

そんな風にミニがBMWのバックボーンと元々持つブランド力を合わせて現在のプレミアムB~Cセグメントをリードしているわけだけど(2016年の日本における外車売上で遂にゴルフを抜いて1位に)、これによって表向きでもイギリス車はドイツやフランスのコンパクトと拮抗出来るモデルを得たと言える。いや、むしろ御三家よりも先んじてコンパクトセグメントのプレミアム化を実行し、リードしているとも言えるだろう。ミニの成功の後、A~Bセグは様変わりしている。イタリアのフィアット500の復活なんて思いっきりミニと被る路線だし、アウディがA1を出したのはVWグループとしてポロだけではカバーしきれない層を拾うためだと言える。更にはSUVのミニ・クロスオーバーが出たことで、同じくフィアットも500ライクのデザインでSUVという"500X"を、アウディも今までにないポップなデザインの"Q2"を最近リリースしたことは記憶に新しいところだと思う。

fiat500_02.jpg
サイズはミニより1サイズ下だけど、ネオクラシカルなコンパクトという選択肢としてミニのライバルでもあるフィアット500

audiq2_01.jpg
既にQ3というコンパクトSUVが存在していたが、よりポップで若者にも訴求する選択肢としてQ2が今年登場。ミニクロスオーバーやフィアット500Xとも対峙していく。因みにBMWも間もなくX2を出す。もう完全にMINIとBMWが被り始めている。

前述の通り最近ではSUV(クロスオーバー)やステーション・ワゴン(クラブマン)まで登場し、Cセグすら脅かす存在になっているミニなのだが(既にクラブマンと兄貴分のBMWの1シリーズはほぼ同サイズだし、むしろクラブマンのほうが高めだ)、流石にこれ以上のサイズ感は今すぐは出てこないだろうし、3シリーズを脅かすモデルを同胞であるBMWが作るとも思えない(今にしてみればSUVも最初は十分有り得なかったので将来は分からないけど)。

そこに最初に焦点を合わせたのがジャガーだったのだと思う。ミニは基本小型車だし、大きくしすぎれば同胞のBMWと被ってくるのでそこはBMWもさじ加減が難しい所だとは思う。しかしながら、他の「イギリスブランド」を眺めた場合、それが出来るのは恐らくジャガーくらいしか今は居ないのである。

先ず親会社自体が御三家であるロールスロイスとベントレーは置いておくとして、最近ダイムラーが絡んだとは言え、ついこないだまではそうではなかったアストンマーチンが庶民派(これらブランドから見たら、だけど)なDセグメントで2L前後のエンジンのモデルを作るだろうか?アベレージで2000万以上の車がゴロゴロしているブランドである。彼らは御三家よりも更に高みに居て(モデルにもよるけど)、本気の金持ち、例えば成功しているIT企業の社長とか、執行役向けのブランドなのである。ライバルはむしろマセラティとかテスラとかそっちなんだと思う。ロータスはスポーツのための孤高のブランドだし。

既にMGやRoverに世界的な戦闘力が無い、解体している現在、中間的なモデルを作れるのはジャガーしか残ってなかったのだと言える。実際に実績(Xタイプ)も含めてそうだろう。むしろジャガーがフォード末期のゴタゴタとXタイプの失敗でズッコケていただけなのか知れないけど。

そこで新たなフェーズの最初の取り組みは「Dセグで世に問えるクルマを作る」事になったのだと思う。但し、Xタイプの苦い経験から、これにはかなり慎重になっていたと思われる。幸いにもバックボーンとなったタタ・モーターズは資金も豊富かつ、カネは出しても口は出さないと言う感じでプランからしっかりジャガーがお金をかけて進められたことで、良い人材の登用(BMW出身のCEO採用やイアン・カラムをジャガー専任のデザイナーに留めることが出来た)、柔軟なプラットフォームの開発(これが次期XFやSUVにも繋がる)、完全に自社設計のエンジン(インジニウム・エンジン)に繋がっていった。

そして、既存のイメージを打ち破るブランドイメージの構築である。これはXFから始まっていったことだが、XEの開発時期にそれはより一層強く高まっていったのだろうと想像できる。先ず、XEという広く知れ渡ることになる庶民的なセグメントの開発において、ライバルを明確に御三家と定めて、明らかにそれまでのイギリス車や過去のジャガーを参考にするのではなく、ドイツ車を出来るだけ参考にしたところである。それはデザインからテクニカル、パフォーマンスまで全てである。実際に同セグメントのライバル車をジャガーでは何台も購入して、デザイン、機能の確認や比較を行って開発をしていったようである。それは英国の誇り高きブランドにとって、大きな変化だったと思う。

これらを包括して完成したXEは、ワイドアンドローでモダンなクーペスタイルの外観を持ち、スポーティな足回りを携え(後々書くが、実はXEで一番素晴らしいのは足回りだと思う)、プリクラッシュセーフティ(ACC、衝突軽減ブレーキ等)や独自のインフォテインメントシステム(InControlTouch)を装備し、最新の環境性能の高く、かつスポーティなエンジン(燃費の良いクリーンディーゼルや直噴ターボ)を積んでいた。

ある意味見た目の極めつけは、XEはが「イタリアンレーシングレッド」をモデルのイメージカラーに選んでいたことである。確かにXEにはこの色が最もスポーティに見えて似合うような気がする(だから僕もこのカラーを選んだ。赤い車なんて乗るとは思いもしなかったが)。当初はブリティッシュレーシンググリーンも設定色には有ったが、最近カタログ落ちしたのも象徴的だろう。もう古い英国車像からは加速度的に離れていってるのである。その離れっぷりはデザイン自体は意外とコンサバなミニ以上である。

上記のような特徴は、正にドイツ車、ヨーロッパ車の標準として求められるようなスペックである。もはやクラシカルな外観や木目調のインテリアなどは存在せず、ワイドアンドローで比較的マッシブなフォルム、肉感的なフェンダー周りは近年のヨーロッパ車で流行のそれなのだが、敢えてイギリス車らしさ、ジャガーらしさを指摘するのなら、筋肉質なフォルム自体が動物のジャガーを表現していると思われるので、細マッチョ的と言うか、グラマラスでは有るが、中性的な雰囲気も有ること、流行のスタイルの中でも、サイドベントなどが大きく開いていたり、キャラクターラインが多用されていると言う程でもないのである。その中でややクラシカルさを残すグリルとシャープながらも全体的には昔のジャガーのようにスリークとまではいかないが基本はシンプルなボディデザイン、機能性よりはデザイン度が高いインテリア(逆に所々にドイツ車より安っぽさもあるが・・・)と言った所だろうか。

このXEの振り切れっぷりと同時に、ジャガー初のSUVである"F-Pace"も同じプラットフォームを流用し開発していった訳だから、「既存のイメージをぶち壊す」と言うのもあながち的外れではないと思う。僕のような比較的後追い世代のジャガーファンですらSUVが出ると聞いたときには結構驚いたので(その一方でジャガー・ランドローバーになったわけだからSUVのウンチクは凄い有るので作ってもおかしくないよなぁという変な感慨も)、オールド・ファンにとっては腰を抜かすほどの衝撃だったのではないだろうか。

でもね、そんなに拘ってない人には「高級車ブランドの洒落たSUV、いいねぇ」ってなもんなんだと思う。ミニ・クロスオーバーだってマニアは「こんなのミニじゃない、認めない」といった所で、普通に洒落た車欲しい人には「ミニのデザインで人も荷物も入っていいねー」という感じで、今や日本ではクロスオーバーがダントツ売れてるわけだからね。ケツの穴が小さい輩ばかり相手にしてられないのが商売なんだろうね。

こうして、Dセグメントの"XE"の登場を皮切りに、BMW3シリーズやアウディA4らと似て非なる「新しい英国のエントリー・プレミアム」を紹介することが出来たジャガーは、流行りのSUVにおいてもBMW X3,X5、いやむしろスポーティなポルシェ・マカンをライバルとする"F-Pace"、そして改めてエグゼクティブの中心セグメントとも言えるEセグメントの"XF"でも新しいプラットフォームやバリエーション(スポーツブレイクと言われるステーション・ワゴンも登場)を用意し、BMW5シリーズやメルセデスEクラスのオルタナティブとして機能するに至っているのである。

これにより、一気に空洞になっていた「イギリスのDセグ以上」が埋まったことになる。更には上位層のダウンサイジング、SUVがブームも含めて最も今後アツいとされる「CセグメントのSUV」にも遂には"E-Pace"の発表で切り込んできた。ここで新ジャガーでは初めてFFベースのプラットフォームを採用している。こうなると何れはCセグでハッチバックスタイルのジャガーも登場するのだろうか。名前は"XD"とか?

https://www.themotorreport.com.au/car-review/jaguar-xd-hatchback-rendered-82317.html

ググってみたらとっくに世間でも噂になっているみたいね。レンダリング画も登場してる。今のジャガーなら十分有り得そう。ここまでやればほぼイギリスブランドでもドイツに対峙出来るモデルが並ぶことになる。

長くなったが、こういう未来が見えたことで、僕自身もそんな御三家のオルタナティブに成り得るかもしれないジャガーに肩入れしてみたくなったし、ある意味それを純英国車としてやってやろうと思っているジャガーはある意味精神的には凄く英国的に思えてきたのも有るかもしれない。勝手な解釈と判官贔屓も有るだろうけど。

続く

この記事へのコメント